M&A業界の風雲児登場!
今回は2023年1月の決算で業界だけでなく、起業家や個人投資家の度肝を抜いた『M&A総合研究所(証券コード:9552)』を紹介いたします。
徹底した管理×営業×テクノロジーで、利益率の高い業界に切り込むのは強いですね...(当然)
- M&A総合研究所の概要
- M&A総合研究所のビジネスモデルと優位性
- M&A総合研究所の沿革
- M&A総合研究所の売上・営業利益・営業利益率
- 主要KPIと推移
- 財務状況(PL, BS)
- 主要株主
- 年収
- 成長の秘訣
- 今後の成長可能性
- IPO時の時価総額と初値
- 株価・時価総額・株主優待・配当利回り他
- まとめ
M&A総合研究所の概要
引用:成長可能性の資料
M&A 総合研究所は 2018年10月に設立されたM&A仲介サービスを提供する企業です。
創業者兼代表取締役CEOの佐上峻作さんは、1991年生まれの31歳(2023/02/05時点)。新卒でサイバーエージェント子会社のマイクロアドにエンジニアとして入社。広告配信システム開発のアルゴリズム開発に従事した後、1回目の企業となるAlpacaを創業。
佐上さんはAlpacaをベクトルに売却。そのAlpacaの売却やベクトル子会社でのM&A経験、祖父の後継者不在による廃業などを目の当たりにし、中小企業に寄り添いつつ、仲介プロセスを技術で効率化できると考えM&A総合研究所を立ち上げられた会社です。
M&A総合研究所のビジネスモデルと優位性
引用:成長可能性の資料
ビジネスモデルとしては、既に先行企業である日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズと同様のM&A仲介です。
「M&A Techにより未来のM&A市場を創造する」を企業理念に掲げ、AIを中心としたテクノロジーとM&Aアドバイザーのサポートにとる仲介サービスが特徴的です。
では、どのように後発ながらも破竹の勢いで伸びているのか?です。
伸びを生み出す優位性は大きく4つあります。
・売却企業は完全成果報酬型という革新性
・日本最大級のM&A専門オウンドメディアから流入
・企業のAIマッチングシステム
・業務の効率化
売却企業は完全成果報酬型という革新性
まずは、売却側の報酬制度の違いです。
業界1位の日本M&Aセンターの場合、
・売却側は、調査・資料作成開始時
・購入側は、情報提供開始時
にそれぞれ、着手金を支払う必要があり、その後は成約した場合に成功報酬が掛かります。
引用:成長可能性の資料
一方で、ビジネスモデルの図を見ていただければ分かる通り、M&A総合研究所の場合は
・売却側・購入側ともに着手金は無料
・基本合意契約時も売却側は中間報酬が無料
・最終契約締結になって初めて、売却側も費用発生
という形で、より売却側の費用負担が減る形となっております。
売却側からすれば、少しでも費用を抑えて高く売りたいという心理が働くと思います。
これらを実現しているのは、後述するマッチング精度の高さや効率化が為せる技だと思われます。
日本最大級のM&A専門オウンドメディアから流入
引用:M&A総合研究所HPより
2つ目の優位性ですが、自社オウンドメディアからの問い合わせにより、売却側の顧客獲得を効率化している点です。
引用:成長可能性の資料
ドメインを見ると分かりますが、サブディレクトリとしてM&Aに関連する記事を大量に作成しています。
引用:SEMRush
流入を獲得しているキーワードを見ていくと、M&A関連のキーワードはもちろんのこと、「リタイアとは」「アーリーリタイア」など幅広いキーワードで流入を得ているようです。
※社長がリタイアを考えた時を狙っているのでしょうか...?
企業のAIマッチングシステム
引用:PKSHA業務提携
2021年1月にPKSHAと業務提携を行い、マッチングシステムを構築しているようです。
売却先と買収先のマッチングアルゴリズムの基準ですが、
・過去の買収実績
・商流や販路の拡大可能性、商材
・所在地
・売上規模
などを掛け合わせて、100万件以上登録されている自社企業データベースから500~1,000件ほどが企業間の親和性を推定した上で自動的にロングリスト(買収候補企業リスト)として抽出されるシステムのようです。
引用:成長可能性の資料
また研究開発として、自然言語処理や機械学習には年間500万円程度を投資し、精度向上を図っているようです。
業務の効率化
引用:成長可能性の資料
これまでに約8,000回(年間2,000件ペース)の改修を行なっている自社開発のM&A専用システムを利用し、DX化を実施。
具体的には、
・手紙送付はシステム上で送付先を指定するだけで完結
・ワンクリックで契約書の生成、稟議申請が完了
・契約書の郵送もワンクリックで担当事務に伝達
といったように、M&Aアドバイザーはお客様とのコミュニケーションに集中できる環境が整っています。
これらの成果もあり、通常は1年と言われる成約までの期間が、M&A総合研究所は6.6ヶ月と約半分の期間で成約まで到達しています。
まさにDX,AIなどのテクノロジーによる業務効率化と新たなビジネスモデル構築と考えられます。
M&A総合研究所の沿革
HPより作成
2018年に創業後、翌年にはメディア運営企業を買収。その後は着実に業績を伸ばし、一定のスケールが見えてきたところでPKSHA Technologyとの業務提携を行い効率化を図っていった流れかと思います。
PHAKSHAとの業務提携
引用:HPより
ここまで何度か登場していますが、2021年1月にPKSHA Technologyと業務提携を発表しています。
主にPKSHAとの協業により、
・ネット上から収集した情報を構造化し、企業DBの構築
・売却企業と買収企業の相性を判断する類似AIの作成
などを行なっていると思われます(推測)。
M&A総合研究所の売上・営業利益・営業利益率
有価証券報告書より作成
2022年の売上高は39.1億円(前年比約3倍)、営業利益は21.0億円(前年比約3.8倍)、営業利益率は54%と恐ろしい成長率、営業利益率を実現しています。
各社の有価証券報告書より作成
ちなみに、上場しているM&A仲介会社と比較すると、業界1位の日本M&Aセンターとは売上高で10倍、業界2位のM&Aキャピタルパートナーズとも売上高で5倍の差があり、まだまだ成長の余地があるように見えます。
主要KPIと推移
引用:成長可能性の資料
マッチングサービスの場合、成約件数と成約単価がポイントとなってきます。
引用:成長可能性の資料
またM&Aの場合、アドバイザーの人数によっても成約数が関わってくるため、アドバイザーの数+1人あたり売上高を定点観測していくのが重要です。
財務状況(PL, BS)
有価証券報告書より作成
まずはPLを見ていきます。
営業利益率の高さからも分かる通り、非常に原価・販管費ともに抑えられています。
原価に関しては主に人件費であり、販管費は広告宣伝費が最も多く、ブランディング広告などの効果検証も行っているようなので、この辺りは圧縮しようと思えばさらにできるかと思います。
引用:成長可能性の資料
テレビCMやタクシー広告で認知度向上を狙ったようですが、あまり効果は無かったようで、来期以降の実施予定はないようです。
効果検証しつつ、顕在層・準顕在層に絞ってマーケティングを行うことで、利益率の向上はさらに見込める気もします。
有価証券報告書より作成
次にBSです。
まずは流動資産の多さが目立ちます。流動資産比率は281%と、非常に安全性が高いと言われている200%を大きく超えています。
少し気になるのが固定負債ですが、これは長期借入のようです。
純資産も多く、非常に安全性が高いように見えます。
主要株主
引用:成長可能性の資料
株主ですが、代表の佐上さんが74%を保有しており、続いてPKSHAの投資ファンド、さらに Reo Asset Managementというクルーズ系の投資ファンドとなっています。
クルーズの投資ファンド、こういったところにも絡んでくるんですね。面白い。
年収
引用:有価証券報告書
M&Aアドバイザーは各社給与水準を上げて引き抜きをしています。
そのような中で、有価証券報告書の給与では平均勤続年数が0.9年、平均給与が689万円となっています。
設立から月日が浅いことと、未経験者を採用(未経験者は420万円+インセンティブ)していることでこのような数値になっています。
引用:成長可能性の資料
ただ実際は、2年目以降ぐっと上がるようですので、次の有価証券報告書の数値が楽しみです。
成長の秘訣
ここからは、M&A総合研究所がなぜ急成長できたのかを紐解いていきます。
営業
引用:成長可能性の資料
キーマンは取締役営業本部長の矢吹さんです。
元々キーエンスに新卒入社した後、日本M&Aセンターに入社。2019年の創業直後にM&A総合研究所に入社しています。
矢吹さんの過去の経験と、M&Aに特化した自社開発システムで、採用から営業案件までを細かく分解し、BIツールで可視化して管理していることで、採用・営業ともに成功しているようです。
引用:成長可能性の資料
また給与水準の高さや若い時から経験を積めるということもあって、金融機関をはじめ、総合商社や楽天・アクセンチュアなどから転職している人が多いようです。
マッチング期間
引用:成長可能性の資料
M&Aという企業と企業の結婚のようなものは、当然時間が掛かります。
通常の場合、早くても1年程度掛かる契約が、M&A総合研究所の場合、平均6.6ヶ月という驚異的なスピードとなっています。
なぜ時間が掛かるのか?ですが、
・マッチング精度による巡り合わせ
・契約履行のための各種手続き
という2つで時間が掛かります。
ただ、M&A総合研究所の場合、自社開発のDXシステムを活用することで、一定のマッチング候補出しをAIが行い、実際の契約書作成も自社システムで簡単に作成できる+事務員さんのサポートで分業することで、リードタイムの短縮を実現しています。
採用
引用:成長可能性の資料
前述した通り、採用も徹底的に科学されています。
具体的にはエージェントごとの紹介数から採用数、さらに各転職サービスのスカウト送付数からブレイクダウンした数値まで管理し、細かく改善を進めています。
マーケティング
引用:成長可能性の資料
前述の強みでも述べた通り、メディア企業を買収して得たノウハウを活かしてオウンドメディアを展開しています。
そこからのインバウンドリードが一定発生していることで、事業を加速させています。
開発
社長もエンジニア出身であり、自社システムの開発や研究開発など、経営層の理解が深いのは、社内の開発関係者にとっても嬉しいことだと思います。
今後の成長可能性
引用:成長可能性の資料
企業の成長可能性資料でも述べられておりますが、M&A総合研究所の成長性が続くのか見ていきたいと思います。
・人材採用の継続と、1人あたり売上高の維持
・システムアップデートによる更なる効率化
・新事業によるキャッシュポイントの増加
人材採用の継続と、1人あたり売上高の維持
引用:成長可能性の資料
前述した通り、採用に関しては勢いや給与面の高さなどもあり、大きな問題は無さそうです。
一方で、急拡大する組織として中間管理職が育ってくるか?といった点や、生産性を維持できるか?がポイントになってくるため、1人あたり売上高の推移はしっかり追っていきたいです。
システムアップデートによる更なる効率化
引用:成長可能性の資料
CEO, CTOともにM&A業界に造詣が深く、さらに社内エンジニアがシステム開発しているため、機動性が高いのがポイントです。
今後も引き続きこの機動性が担保できるかも気になるところです。 ※システムが大きくなってくると、どうしても機動性が落ちてしまうため。
ちなみにCTOが誰なのか?気になったので調べたのですが、全然出てこないんですよね...どなたなのだろう...?
あとエンジニアもほとんど採用してないみたいなので、実質CEO + CTOとインターン生で社内システムとメディアの運用保守をしている可能性もある...?
言語はサーバーサイドはRuby、フロントはReactがメインの様子。あとAWS使ってるみたい。
参考:レバテックの求人情報より
新事業によるキャッシュポイントの増加
引用:成長可能性の資料
M&Aの市場自体が成長しており、引き続き競合優位性もあるため、まだまだ本業のM&A仲介で伸びることが可能だと思います。
一方で、引き続き営業利益率を維持しながら業界1位を目指すには、新たなキャッシュポイントも必要になってくると思います。
引用:成長可能性の資料
そのような中で、金融・資産運用などは非常にM&Aとも相性が良く、ファンド設立などで大きく利益を伸ばしていくことが期待できそうです。
IPO時の時価総額と初値
経営層の経歴や、市場全体の成長性から初値は公開価格1,330円に対して89%上回る2,510円スタート。初日の時価総額は465億円でした。
株価・時価総額・株主優待・配当利回り他
ここからはテクニカル指標を見ていきます。
時価総額と株価の推移(株価は上がる?)
上場後、株価は右肩上がりです。2022年10月には世界的な景気後退や円高の可能性が囁かれ、一時的に下がりましたが、直近の決算でもストップ高を出すなど、期待が表れています。
時価総額も上場時の465億円から、2023/02/05 時点で1,740億円と3.75倍となっております。
※余談ですが、社長の株式持分が70%超えているので単純に資産1,000億円超えてますね....(すごい)
株価は7,500円から9,500円の間でボックス相場を繰り返しつつ、営業利益率の高さと成長性を考えると上値を上げていく展開が予想できます。
ただ、競合の日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズ、ストライクなどがPER20~30倍に対して、PERが80倍まで上がっているため成長性に陰りが見えると、一気に調整局面に入る可能性が高そうです。
株価指標・経営効率
ここからは経営効率や株価指標を見ていきます。
項目 | 値 |
---|---|
EPS(1株あたり純利益) | 71.29 |
ROE(自己資本利益率) | 72% |
ROA(純資産利益率) | 48% |
PER(株価収益率) | 80.1倍 |
PBR(株価純資産倍率) | 43.38倍 |
個人的にはやや高めな印象です。
購入したい銘柄ですが、株式市場全体の先行き不透明感や、競合他社の決算結果が気になるため、もう少し様子見したいと思っています。
株主優待・配当利回り
現時点では株主優待はなく、配当もありません。
今後、プライム市場を目指すなどあれば、個人投資家を増やすために配当を出したり株主優待を出す可能性もありそうです。
まとめ
中小企業M&Aの市場は、現在業界1位の日本M&Aセンターが一部マージンをカットして市場を牽引してきました。
その市場に、さらにテクノロジーでマージンを省くことで急成長してきたのが今回の『M&A総合研究所』という形です。徐々に市場全体が効率化される中で、売り手側・買い手側の費用負担が下がっていくのは市場全体としても喜ばしいことですね。
企業全体として、徹底的にテクノロジーを駆使して効率化する姿勢は好感が持てます。引き続き市場成長を超えるスピードで成長しそうなM&A総合研究所から目が離せません。
▼ちなみに社長・副社長が2021年に本も出されていますね。