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変化を楽しむ気分屋ぐりの役立ちノート

【要約】伊藤忠〜財閥系を超えた最強商人〜近江商人の創業から商社三冠達成まで

商社の歴史、面白いなぁ...

令和に入って圧倒的な就職人気を誇る、総合商社の「伊藤忠商事」

今回は2022年12月に出版された『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』を読み、非常に学びが多かったので概要と要約を紹介いたします。

伊藤忠〜財閥系を超えた最強商人〜の概要

約270の伊藤忠グループのトップとして君臨する伊藤忠商事。ファミリーマートをはじめ、多くの人が知る企業を子会社にもつが、三菱商事や三井物産とは一線を画す戦略で業界トップにのし上がった伊藤忠商事の160年超の歴史

368ページの大作ではあるものの、160年の歴史がギュッと詰まっており、世界の変化に合わせた商社の変遷を知ることができる1冊となっています。

仕事に励むスタンスはサラリーマンとして非常に刺激を受けますし、リスク防止・対処の観点は投資家として参考になる非常に面白い内容となっております。

伊藤忠〜財閥系を超えた最強商人〜の目次

目次

・はじめに:社員との約束
・第1章:伊藤忠の原点
・第2章:財閥系商社との違い
・第3章:戦争と商社
・第4章:線維商社から総合商社へ
・第5章:高度成長期における商社の役割
・第6章:自動車ビジネスへの挑戦
・第7章:オイルショックの衝撃
・第8章:下積み時代の教訓
・第9章:バブルの残照
・第10章:商社の序列
・第11章:コンビニ事業への参入
・第12章:ITビジネスへの飛躍
・第13章:か・け・ふ
・第14章:あるべき姿とめざすべき姿
・第15章:日本と総合商社
・第16章:CEOの決断
・エピローグ:花見と祭り

要約・注目ポイントの抜粋

概要・目次で全体感が掴めたところで、ここからは特に私が本の中で気になった部分を、感想を交えながら紹介します。

はじめに:社員との約束

伊藤忠商事の戦後8代目社長の岡藤氏が掲げた「か・け・ふ」。

・(利益を)稼ぐ
・(無駄を)削る
・(損を)防ぐ

の頭文字をとった言葉で、岡藤氏が自ら考えたキーフレーズです。この言葉に財閥系商社との違いと、伊藤忠商事の特徴が如実に現れています

またこれ以外にも、110運動、脱スーツ・デーなど、伊藤忠の先進的な取り組みは全て岡藤氏自らが知恵を絞って印象に残る言葉として発信したものです。

そんな言葉1つとってもディテールまでこだわる岡藤氏率いる伊藤忠商事だが、創業期から社員にやさしい会社だったそうです。
※創業時は当時珍しかった牛肉を月6回も社員全員で食べたり、最近では万が一社員が亡くなった場合は子供が”大学院”を出るまで全面サポートするなど、優しいエピソードが満載です。

第1章:伊藤忠の原点

初代伊藤忠兵衛は滋賀県出身であり、滋賀県には日本最大の湖、琵琶湖があった。潜在的に水運を利用することを知っており、滋賀から水運を利用して全国へ商売を広げていった彼らを近江商人(おうみしょうにん)と呼んでいる。

第2章:財閥系商社との違い

第1次世界大戦が巻き起こった1910年代、海運業と一体の三菱商事、燃料と政府御用の三井物産が戦争で大儲けした中、伊藤忠もまた戦争で伸びた商社でした。

そんな世界が戦争に突入していた時代、日本では和装から、徐々に洋装に変化していました。特に小学校までは和装だが、都会に出て工場で作業着を着る流れがあり、洋服の需要が高まることが予感されていました。

そこで伊藤忠パーソンは生地を手当てして、製品に仕立てることを計画。繊維工場を訪ねて、制服、作業服、紳士服、婦人服を開発し、見本品を作成し、百貨店、洋品店、工場へ売り込みに行ったのです。

まさに商社パーソンの仕事はこの時代からすでに始まっていたのです。

そしてまさにこの、世の中の人々が使うようになる商品をメーカーに開発してもらい、それを新しくできた市場に売りに行くこと。新しい時代が来たことを察知し、時代に合わせて商品を見つけてくること。あるいはメーカーと一緒になって開発し、それを販売店に卸すこと

これが岡藤氏が掲げる「マーケットイン」の在り方そのものです。

第3章:戦争と商社

伊藤忠の長い歴史の中で最も功績があるトップは誰か?と問われたら、2代目の伊藤忠兵衛。2代目は個人商店を会社にし、戦前に日本有数の企業グループにしている点で非常に優れています。

また戦争後について言及されているこの部分は、非常に面白かったです。

公職追放の結果、日本社会の上層部が若返り、新しいもの、アメリカからやってきた商品やサービスを肯定的に評価する気風が生まれた。戦後改革の成果の一つは、若いという価値か、新しいという価値が世の中で重きを置かれるようになっていった

第4章:繊維商社から総合商社へ

総合商社という言葉は、戦後に出てきました。

「総合商社」という言葉が出てきた理由は2つで、
*1. 敗戦後、分割されていた三菱商事・三井物産が再合同したのがその時期
2. 伊藤忠・丸紅などの繊維商社が資源・機械などの取り扱いを増やして、総合化を目指した時期
* この2つが重なり、高度成長期前夜という時代背景もあり生まれてきました。

第5章:高度成長期における商社の役割

陸軍士官学校を卒業している瀬島という男がいましたが、縁あって伊藤忠に入社し「スタッフ勤務の参考」というマニュアルを作成しました。

これは日本軍の大本営・参謀の在り方を参考にしており、「スタッフの本質は補佐だ」と解いています。

・1つ目に、内外にまたがる情報の収集整理で、特に実情を絶えず把握しておくこと
・2つ目に、できるだけ広い視野で、少なくとも大局を誤らないように策案を熱慮し、適時それを将師に具申または提出すること
2つなり、3つなりの作案に利害得失を整理して提出し、将帥の判断と選択の参考に資することが大事だということ
・3つ目に、将帥が決断を下した場合、それが速やかに、かつスムーズに実行に移されるよう、幕僚は活動しなければならないこと

このような組織体制が敷かれる中で、伊藤忠は何に強いかを自覚し、自分の強みで新しい仕事を始め、新しい市場を創ることを進めていきました。

第6章:自動車ビジネスへの挑戦

いすゞ・GM・伊藤忠の提携について述べられていますが、歴史の紹介のような形です。

第7章:オイルショックの衝撃

第5章に続き、瀬島氏のエピソードが紹介されます。

この方は常に「要点は3つ」という形で話される賢い人で、伊藤忠の幹部・中堅幹部は今も書類を作成するとき、「要点は3つまで」が頭をよぎるそうです。

この辺りは、1ビジネスパーソンも見習うべき点です。

第8章:下積み時代の教訓

ここからは伊藤忠商事を大躍進させた岡藤氏のエピソードとなります。

岡藤氏は通常は1年〜2年で終わる下積み生活を4年も行っておりました。その後、営業に出るも最初は苦戦。たまたま立ち寄った帝国ホテルでのスーツ仕立て販売にて、家族連れの妻・娘がスーツの選択権を持っていることに気付き、妻・娘ウケの良いブランド名をスーツに付けることで大ヒットさせました

そのヒットに胡座をかかず、イニシアチブを取ることために、矢継ぎ早に参入障壁を構築するために、先手を打って多くのブランドを糾合
※イニシアチブとは、商社が主導権を握ること。企画でもいい、強力な商品でもいい。それを考えるのが商社の人間。マーケットインとイニシアチブ、この2つは商社が発展する原動力と岡藤氏は考えている

これがまさに商人の仕事です。次々とアイデアを生み出す発想力と細かいところまで詰める慎重な性格が相まったからこそできた事であり、岡藤氏の力でもあります。

第9章:バブルの残照

90年代末からは総合商社にとっては厳冬の時期でしたが、結果としては追い込まれたことで、各社ともこの時期に業態を変え、2000年以降、業績を伸ばしています

第10章:商社の序列

総合商社では1990年代後半まで、売上高で争っていました。

しかし1998年に利益が重要視されるようになり、総合商社の順位は売上高から連結税後利益という指標に変わっていきました。

利益を出すためには、岡藤は常に、自分の得意とする武器を手にして考えろと言ってお理、自分の得意な分野でイニシアチブを取る重要性を説いています。古くても新しくてもいいから、イニシアチブが取れる商品を見つけて、広大な市場で売ってこいと。

第11章:コンビニ事業への参入

各コンビニが凌ぎを削る中、物流の効率化が課題となってきました。そこで、セブンイレブンは「メーカーに繰り返し働きかけて」配送トラックの台数を減らしたが、伊藤忠は物流会社と自社倉庫を造って、問題を解決していきました

セブンイレブンは受け取る側、つまり店舗側の発想で答えを出したのに対して、伊藤忠は商流と物流の全体像を改善しています

また上位商社に勝つための速度は、コンビニビジネスに関わるうちに身に付けたと言われています。拙速と思われても、まずは動く。どんどん動く。自ら動いて周囲を振り回すことで渦を作っていくとのこと

第12章:ITビジネスへの飛躍

伊藤忠はCTCなども傘下に収めているが、ITビジネスの世界で、顧客が欲しいものをどう理解するか?という中で、「お客様との対話」に尽きると担当者は語っています。

つまり、お客様と常に一緒にいることであり、お客様のビジネスに常に寄り添っているかということ。開発側ではなく、とにかくお客様は何を欲しているのか、何を困っているかを”身内”になって感じ取る。その姿勢を貫くしかないと。

これはプロダクトマネージャーなどにも通ずるところで、改めて自らも意識していきたいです。

第13章:か・け・ふ

冒頭で紹介した「か・け・ふ」だが、岡藤氏が社長になって最初に取り組んだのは「削る」こと。社内会議の回数と会議資料を思い切って減らしました

「か・け・ふ」について、「稼ぐ」は商人の本能、「削る」は商人の基本、「防ぐ」は商人の肝と説明
「削る」ことは無駄を省くこと、「防ぐ」は不測の事態になっても大丈夫なように日頃から仕事をチェックすること

削るの例では、「会議の準備をする時間があれば外へ出て顧客を回れ」を徹底させ、経営会議の時間と資料も少なくしたそうです。

防ぐの例では、「情報を定期的に収集し、いざという時、素早く対応すること」を徹底したそうです。

また、岡藤氏はとにかく社員のモチベーションを上げることを最優先にした取り組みを矢継ぎ早に進め、変革の波を作っていきます。

第14章:あるべき姿とめざすべき姿

時代や環境を睨みながら、アイデアを出し、自分が経験した事物を組み合わせて事業を立ち上げる。経験が多ければ多いほど、組み合わせのパターンは増えます。

商社の仕事は、まずはやってみて、後から点と点が繋がっていくようなものだと考えており、この点を幾つ自分の中で作っていけるかが、若いうちだけではなく、人生の中での重要なポイント」だと本紙に出てくる山田氏は語っています。

第15章:日本と総合商社

世界のマーケットから歓迎されるイニシアチブのある商品、サービスを見つけるのは伊藤忠パーソンに課せられた使命であり、今後の日本の行く末もかかっています。

マーケットインの発想で新しい仕事を開拓するセクションとして第8カンパニーを作った伊藤忠

カンパニーの名称に商品名が入っていないのにも理由があり、商品名をつけると、それにこだわってしまいます。そこで伊藤忠では初めて商品の付かない第8という名前のカンパニーとしたそうです。

第16章:CEOの決断

現場へ行くのが商人の道』。

伊藤忠の今後について岡藤氏は、農業に例え、

たとえ品種改良を行い、良質な肥料を使ったとしても、限られた農地で収穫量を増やすには限界がある。天候不順で思わぬ不作に見舞われるリスクも大きくなる。 したがって、農地を開拓して新しい「面」を広げ、様々な種を蒔いてイカねればならない時もあると考えている 最初は石ころだらけかもしれません。痩せた土地かもしれません。しかし、将来に希望を抱きながら根気強く、知恵を絞りながら懸命に育てていけば、やがて肥沃な土地になり大きな実りが得られるという信念を持っている

と述べられているが、新規事業の立ち上げなどでもまさに意識しておくべき考えだと感じました。

エピローグ:花見と祭り

最後は岡藤氏自身のマーケットインのエピソードが紹介されます。

ゴルフにおいて下手な人はコンペでも商品をもらったことはない。それじゃ可哀想だから、下手な人にこそ商品をあげると。ブービー(下から2番目)は2位と一緒。ブービーメーカー(最下位)は優勝と同じ商品。

これらも岡藤氏自らが景品まで用意するが、この接待もまたマーケットインですわ。下手な人の気持ちになること(マーケットイン)の重要性がこのエピソードからも垣間見えます

まとめ:伊藤忠〜財閥系を超えた最強商人〜は、160年をギュッとした濃い1冊

本書は伊藤忠商事の歴史を振り返りながら、所々に主要な人物へのインタビュー話やエピソードが盛り込まれている形となっています。まさに回顧録のような形となっており、良い点・反省点がまとめられている1冊となっています。

私自身も社会への貢献といった使命から、個人的な日々の過ごし方まで色々と参考になる点が多い本でした。

ぜひ興味がある方は、本書を手に取ってみてください。